仙台高等裁判所 昭和28年(ネ)481号 判決
被控訴人知事が別紙目録記載の土地につき昭和二十四年八月一日附岩手牧を第二六五号買収令書を以てなした買収処分の無効であることを確認する。
前項の土地が控訴人の所有であることを確認する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。
二、事 実
控訴人は主文第一乃至第四項同旨の判決を求め、被控訴人等代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、
被控訴人等代理人において、
一、本件買収は岩手県下閉伊郡花輪村大字長沢第二十六地割字横街道百十七番の三山林十四町五反三畝二十六歩の内五町九反八畝六歩についての一部買収である。
一、被控訴人は右土地を売渡すに際し各々売渡の相手方が異なる旨自創法第四十四条の三第一項の規定により所有者に代つて土地分筆申告をなし、前記百十七番の三から別紙目録記載のとおり分筆され、昭和二十四年七月二日同法第四十一条の規定により同目録記載の山林(一)は訴外城内伊之吉に同(二)は佐々木栄蔵に、同(三)は吉田又重に、同(四)は伊東朝男に、同(五)は岩浅清次郎に各売渡しになつたものである。
と釈明し、
控訴人において、「本件係争山林が本件買収計画当時は未だ分筆前で被控訴人等主張の字横街道百十七番の三山林十四町五反三畝二十六歩の内五町九反八畝六歩に該当すること、それが本件買収処分後において分筆されたものであることは争わない」と述べたほかは原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。(証拠省略)
三、理 由
別紙目録記載の山林が元控訴人の所有であつたこと、地元花輪村農地委員会が昭和二十四年四月頃右山林につき訴外佐々木栄蔵の小作する控訴人の小作牧野であるとして自創法第四十条の二による買収計画を立てその旨の公告及び書類の縦覧手続をなし、次いで被控訴人知事が所定の承認手続を経た右買収計画に基き同年八月一日控訴人主張の買収令書を発行し、昭和二十七年四月十二日これを控訴人に交付したことは当事者間に争がない。
よつて先ず前記買収処分が控訴人主張の如く控訴人の自作牧野を小作牧野と誤認したものであるか否か及びかかる誤認が本件買収処分を無効たらしめるものであるか否かの点について判断するに、本件山林が控訴人の小作牧野と認められることは原判決の理由中この点に関し説示するところと全く同一であるから右理由中の該当部分をここに引用する。のみならず凡そ行政処分の瑕疵を無効として主張し得るためにはその瑕疵が極めて明白且重大な場合に限るものと解すべきところ、控訴人が本件土地に生育する牧草を訴外佐々木栄蔵外数名の者をして一定期間、一定の料金を徴して採取させていたことは控訴人の自認するところであつて、かかる事情の下においてそれが単に牧草のみの売買を目的としたものであるか、又は土地の賃貸を伴う牧草の採取を目的とするものであるかは必ずしもその判定容易なものでなく、従つて仮にその判定に誤りがあるとしてもそれは右にいわゆる明白にして重大なる過誤とはいい難く、それは単に瑕疵ある処分として取消の対象となり得るに止り、買収処分そのものの無効を来さしめるものとは認められない。控訴人の右主張はいずれの点からするも理由がない。
次に控訴人は本件買収令書には買収すべき土地の地番、地目及び面積の記載要件が欠けているから右買収処分は結局買収すべき土地が特定せずこの点においても重大な瑕疵あるものとして法律上当然無効である旨主張するので案ずるに買収処分は買収令書を交付してなされ、その時にその対象となつた土地についての従前の所有者の所有権が消滅し、政府においてその所有権を取得するという効果を生ずるものであるから、当該買収処分によつていかなる土地のいかなる部分が買収されるものであるかは買収令書によつて明確にされなければならないものというべきである。蓋し然らざれば前叙所有権変動の効果を生ずるに由なく、従つてかかる買収処分は当然無効となるからである。本件についてこれを見るに本件買収の目的物件は一筆の土地の一部即ち字横街道百十七番の三山林十四町五反三畝二十六歩の内別紙目録記載の五町九反八畝六歩を対象としたものであることは当事者間に争なく、従つてその買収令書には右土地の地番、地目及び面積等は勿論右五町九反八畝六歩が十四町五反三畝二十六歩のいかなる部分を指すものであるかの点についてもこれを明確にしなければならないものなるところ、本件買収令書には買収すべき土地の地番、地目及び面積等の記載すらなかつたものであることは被控訴人等の認めるところである。尤も被控訴人知事は右買収令書の交付に際しこれに添附すべき右地番等の記載ある目録を脱落し昭和二十七年四月十六日これを控訴人に交付しようとしたが、控訴人においてその受領を拒絶したことは控訴人の認めるところであり、成立に争のない乙第一、第三号証によれば被控訴人知事は右の如く目録の受領を拒絶したため同月二十五日附岩手県告示第二百六十五号を以て交付に代わる公告をしたことが認められるけれども、同告示において買収すべき面積が前記百十七番の三山林のいかなる部分であるかを明確にしていないことは右乙第一号証の記載に徴して明かであるから、本件買収令書は右目録の公告によつては未だ完全に補充されたものとはいわれない。その他被控訴人等の全立証によるも買収令書上これを特定せしめたと認めるに足る証拠がない。然らば前記趣旨において右買収令書の交付による本件買収処分は当然無効のものといわなければならない。控訴人のこの点の主張は理由がある。
果して然らば被控訴人知事に対し本件買収処分の無効確認を求めると共に被控訴人国に対しその無効を前提として本件土地の所有権が控訴人に存することの確認を求める控訴人の本訴請求はいずれも正当として認容すべく、右と異なる原判決は取消を免れない。控訴人の本件控訴はその理由がある。
よつて民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第九十三条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 村木達夫 佐々木次雄 畠沢喜一)
(目録省略)
原審判決の主文および事実
一、主 文
原告の請求はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告知事が別紙目録記載の土地につき昭和二十四年八月一日附岩手牧を第二六五号買収令書をもつてなした買収処分の無効であることを確認する。右土地が原告の所有であることを確認する。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、別紙目録記載の土地は原告の所有地であるが、昭和二十二年二月十日原告は右土地に生立する牧草を訴外佐々木栄蔵に対し、採草期間を同二十三年一月一日より同二十七年十二月三十日までと定め、金一万五千円で売渡したところ、右栄蔵は更にこの牧草を他の数名の者に転売して利益を得ていた。ところが地元花輪村農地委員会は右土地につき昭和二十四年四月頃それが右栄蔵の小作する原告の小作牧野であるとして自作農創設特別措置法第四十条の二による買収計画を立て、その翌日その旨の公告をなし、同日より二十日間書類を縦覧に供し、次いで被告知事は所定の承認手続を経た右買収計画に基いて同年八月一日請求の趣旨記載の買収令書を発行し、同二十七年四月十二日これを原告に交付した。従つて右買収処分は右土地が原告の自作牧野であるのを小作牧野と誤認した点において重大な瑕疵あるものとして法律上当然無効である。また右買収令書には買収すべき土地の地番、地目及び面積等の記載要件が欠けているから、右買収処分は結局買収すべき土地が特定しないこととなり、この点においても重大な瑕疵あるものとして法律上当然無効である。しかして右買収処分が無効であるとするなら、これによつて右土地の所有権は未だ政府に移転したことがないわけであるから、右土地は依然原告の所有であるところ、被告等は右買収処分の有効を主張し右土地の所有権が国に帰属したものとして爾後の手続をとつているから、原告は被告知事に対し右買収処分の無効確認を求めると共に、被告国に対し右所有権の確認を求めるため本訴に及ぶと陳述し、被告等主張の事実に対し、被告知事が原告に対し被告等主張の頃その主張の目録を交付しようとしたが、原告においてその受領を拒絶したことは認めるが被告等主張の右交付に代わる公告のあつたことは否認すると述べた。(立証省略)
被告等訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の土地がその主張の買収当時原告の所有であつたこと、右土地につき原告主張のとおりの牧野買収計画の手続がとられ、被告が所定の承認手続を経た右買収計画に基いて原告主張のとおりその主張の買収令書を発行、交付したこと並びに該令書に買収すべき土地の地番、地目及び面積等の記載要件が欠けていたことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。右土地は右買収当時原告が訴外佐々木栄蔵に賃貸し、同人が原告の承諾を得て更にこれを数名の者に転貸していたものであり、原告の小作牧野であつたから前述のように買収したのであつて、そこになんら瑕疵はない。また前記地番等の要件の記載洩れも右買収令書交付の際買収すべき土地が客観的に特定していたのを、該令書に添附すべき右地番等の要件の記載ある目録を附け落したに過ぎないものであつて、被告知事はこの脱落事項を補正するため昭和二十七年四月十六日右目録を原告に交付しようとしたところ、原告はその受領を拒絶したので、同月二十五日附岩手県告示第二百六十五号をもつて交付に代わる公告をなした。よつて右買収処分はこの時において形式的にも完全なものとなつたから、この点においてもなんら瑕疵はない。従つて右買収処分の無効を前提とする原告の請求はいずれも失当であると陳述した。(立証省略)